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製造業の DX に 3D で貢献する|01.新型コロナ禍が変える産業構造の変化
2020年4月14日
01.新型コロナ禍が変える産業構造の変化
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志
新型コロナが変えた IT 社会
新型コロナとの戦いは、人類の歴史に残るものとなりました。厳しい強硬措置で医療崩壊を避けるのか、経済を維持しつつ感染者数を抑えるのか、日本も瀬戸際です。BC(Before Corona)と AC(After Corona)で時代はどう変化していくのか、製造業はどう生き残っていくべきなのか、人類の進化の歩みが少し遅くなった今、考えていることを連載することにしました。
感染者数の増大の止まらない現在、この危機がどう収束するのか現時点では見通せません。一歩対応の仕方を誤ると、都市の崩壊や国家の衰退をもたらすかもしれません。国家体制が変わってくる国も出てくる可能性もあります。各国は史上最大の経済対策を打ち出していますが、ヒト・モノ・カネの流れの寸断は、企業や業界の存亡にも大きな影響を与えるでしょう。外出制限で行動様式が大きく変化し、人々の価値観や文化、慣習すら変えてしまうかもしれません。
平穏を謳歌していた BC 時代、産業界はITによる DX(Digital Transformation)でビジネスモデルをいかに変革していくのかという議論が活発でした。自動化で効率を上げる Digitalization ではなく、事業に関わるすべての人、プロセス、そして顧客も巻き込んだ変革をDXで目指そうというものです。顧客ニーズを起点とし、社員の働き方を変え、あらゆるコミュニケーションを変え、ビジネスの際の意志決定手法も変える、こういう DX の実現を IT 業界が主導して進めていたわけです。
この風景を新型コロナ禍が一変しました。あらゆる経済活動よりも生命の方が大事、この当たり前の事実を私たちは改めて再認識しました。経済活動を、(1)人と接する活動、(2)モノと接する活動、(3)情報と接する活動の三つに分けて考えると、人との接触をできる限り避けるために(1)(2)は制限し、(3)はリモートワークでという形に強制的に変化しました。結果的に IT 化が遅れていた日本において、社会全体で DX が強制的に進んでいくことになりそうです。ここで一度立ち止まって AC 時代はどう変わるのか、私たちはどういう方法でそれに対峙していくべきかを一緒に考えてみましょう。
立ちすくむグローバリゼーション
ここで少し BC 時代を振り返ってみましょう。1989年11月のベルリンの壁崩壊から始まる急激なグローバリゼーションの波は国際分業による経済発展をもたらすとともに、移民問題や、貧富の格差拡大、過剰なエネルギー消費といった負の問題を起こし、2016年以降グローバル化の反転が目立つようになります。その第一幕が2017年に誕生したトランプ政権による米国第一主義、そして、英国の EU 離脱という Brexit でした。その第二幕が2018年からの米中貿易戦争。GDP 世界1位と2位の繰り広げる関税導入合戦は、貿易を委縮させ、ファーウエイ排除に象徴されるハイテク戦争も予断を許さない状況にありました。
そして、第三幕が新型コロナの発生。欧州の国境は閉鎖され、ロックダウンという都市の封鎖も欧米の至るところで行われています。日本でも緊急事態宣言を受けて、首都圏を含む各地で外出自粛や休業の要請が始まりました。2020年4月現在、日本人は約 180 ヶ国から入国を禁止されています。経済問題であれば交渉の余地はありますが、生命が関わるとなると選択の余地は極めて少なく、グローバリゼーションは至るところで立ちすくんでいるのです。それでは、グローバル化の反転は産業界の構造にどういう影響を与えるでしょうか。
反グローバリゼーション時代の製造業
ここでは三つの観点から製造業への影響を考えてみましょう。第一に、コロナ禍で起こったことは、武漢閉鎖や中国の製造拠点の機能不全に伴う製造業のサプライチェーンの分断でした。4月初旬時点では、需要の減少や感染予防という目的もあって、トヨタ、ホンダ、日産を始め日本の全自動車メーカーの工場が閉鎖されました。巣ごもりで需要の拡大した任天堂の Switch も中国での生産ができずに、出荷が大幅に遅れる見込みです。
グローバリゼーションの時代にはコスト対効果の高いところに委託し部品生産をし、それを集めて組み立てるという水平分業が進んでいました。サプライチェーンの寸断により、各社は水平分業のリスクを強く感じたはずです。かつて日本の電機産業の隆盛をもたらしたのが、開発~生産~販売までのプロセスの一社で行う垂直統合でした。反グローバルの時代には国家間の対立、紛争、感染症といったリスクを考えると、生産地の日本回帰など垂直統合への回帰が起こり、水平分散とうまくバランスさせることが重要になるでしょう。在庫を最低限にするというジャストインタイムも、災害対策の観点からも適正在庫を持つ形に変わるでしょう。
第二に起こることが市場の分断です。新型コロナによって、半ば強制的な“鎖国”状態になると、国際的な物流も滞ります。これは元に戻るでしょうか。これ以前に、米中ハイテク戦争によって、米国の 5G の基地局からファーウエイ製品を排除するなど、同社製品は米国市場から締め出されました。市場が分断され、小規模化するという流れが定着する可能性があります。企業は分断された市場にどう製品を製造、販売していくのか戦略を決めていく必要があります。ビジネスの対象国が細分化されてくると、小規模化した市場からどう利益を上げていくかが課題になります。
第三に考えるべきことは、新しい価値創出による成長です。ここで重要になるのがITを利用したビジネスモデルの変革、つまり DX でしょう。私たちは情報と接する活動はリモートワークでも十分機能することを知りました。顧客と情報を共有する仕組みを構築すれば、顧客を巻き込んだプロセス変革ができるのです。これが DX の起点となるでしょう。
今回のお話はここまで。次回は製造業の DX に焦点を絞って話を進めていきましょう。
・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。
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02.ドイツを参考に日本の DX の未来を考える
著者プロフィール
鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。
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