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製造業 DX × 3D 成功のヒント|01.LIXIL に見る 「DX は一日にしてならず」

2021年8月18日

01.LIXIL に見る 「DX は一日にしてならず」

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

イギリスの代表的なコメディグループ、モンティ・パイソンが演じる 「哲学者サッカー」 というコメディをご存じでしょうか。古代ギリシャと近代ドイツの哲学者がサッカーで戦うというコメディです。ギリシャチームはアルキメデスやソクラテス、ドイツチームはヘーゲル、ニーチェ、マルクス、カントといった豪華なメンバーで、主審は東洋代表の孔子です。ところが、ホイッスルが鳴っても、この選手たちは思索に没頭、誰もボールに触ろうとしません。誰もが自分の哲学の正当性を突き詰めているのです。

この風景は、大会社における全社 DX 推進ワーキンググループで時々見かける風景、つまり、自部門の利害だけを追求し DX が立ちすくむ姿を思いこさせますね。

2001年、早くも Web3D の有効性を検証

さて、今回のコラムは株式会社 LIXIL(以下、LIXIL)の DX x 3D 挑戦の物語です。

2001年、トステム株式会社(以下、トステム)の若手社員二人が、設立間もないラティス・テクノロジー株式会社(以下、ラティス)に一週間滞在し、当時 Web 上での軽量 3D で売り出していた XVL でコンテンツ制作に挑戦しました。

自社のキッチンの 3D データを持参して XVL に変換し、ドアの色や材質を選択できるようにし、ドアをクリックすれば開くというアニメーションを定義し、異なる商品を選べば価格が変わるという Web 上の 3D コンテンツを製作しました。これらを当時完成したばかりの XVL Player で 3D 表示したのです。

こうして自社の商品を Web3D で PR できることを実証しました。今でいう PoC(Proof of Concept)、概念検証です。2001年のあの日、確かに未来のあるべき姿を垣間見ることができたのです。

図 1.2001年当時に作成した Web3D コンテンツ(今でも 3D 表示可能)

2011年、LIXIL 誕生、見積・シミュレーションシステム開発へ

それから 10年後の 2011年、トステムは INAX など 5社を統合し、キッチンやトイレ、バスや洗面台など多様な住宅設備を提供する 「LIXIL」 という大会社が誕生します。

1923年創業のトステムですら多くの建材系企業を統合しながら成長していたのですから、さらに大きくなった LIXIL の設立当初は、異なる商品体系や情報システムが乱立し、混乱していたのではないかと察します。それを統合していこうという動きはこの大合併の中では必然だったでしょう。

その動きの一環で、3D モデルを有効活用した営業見積・シミュレーションシステムを開発することになりました。さっそく 2001年に挑戦した Web3D の実現を見据えてデジタル変革の取り組みが始まります。

ここで立ちはだかったのが多様な商品体系、複雑な商品構成です。統合に伴い乱立する商品体系とコンフィグレーションのルールを整備することが必要になったのです。住宅建材は、お客様の家のサイズに合わせ商品の大きさが変わるので、3D で表現すべき商品は何百万、何千万通りにもなります。まずルールを明確化しないとデジタル化は困難です。

LIXIL 社内では相当の時間と手間をかけてこのルールを整理統合したはずです。ルールが整理されたら、デジタルの出番。ラティスは XVL 上にパラメトリック変形を開発することで、お客様が欲するあらゆる商品を 3D 表示できるようにしました。

一方、LIXIL 社内では掲載する商品すべての 3D モデルを準備し、それを継続的に提供する体制を整えたのです。この社内プロセスの変革が、その後の DX の原動力になっていきます。

図 2.現在の見積・シミュレーションシステムの画像イメージ

ビフォーコロナの時代には、完成した見積・シミュレーションシステムは LIXIL の営業社員によって幅広く利用されていたそうです。全国に百近くある同社のショールームを訪問した数多くのお客様に 3D を活用した商品提案を行い、その魅力を伝えることができたのです。見積プロセスの変革による業務効率化とともに、顧客満足度の高い提案書作成に貢献することができました。
*参考|XVL3次元モノづくり支援セミナー2019|LIXIL が目指す DX~ 3D で魅せる提案見積システムの開発事例紹介|講演概要

ところが2020年、突然のコロナ禍でショールームを訪れるお客様が減ってしまいます。

2021年、コロナ禍で加速したオンラインショールーム

その時、同社の CDO(最高デジタル責任者)金澤専務役員が自宅のキッチン購入時に、この社内システムを利用してみたことで、その有用性を認識し、社外へのオンライン営業に利用することを発案します。

緊急事態でデパートも閉店しショールームも開けない中、この社内見積システムの社外へのオンライン公開に踏み切り、3D による遠隔地営業が開始されたのです。コロナ禍で対面営業が難しくなる中、実際にやってみたらお客様にも大好評、社員にとっても時間と移動の制約がなく働き方改革にも貢献したといいます。

開設して 1年足らずの間に 1万 4000組の方が利用しているという事実からして、膨大な数の提案活動に利用され、おそらく同社の業績にも大きく貢献したはずです。あの錦織圭選手を相手に 3D でキッチンの提案をするというビデオまで公開されており、開発元のラティスとしては嬉しい限りです。

さて、この成功の本質はどこにあるのでしょうか?

それは、2011年の LIXIL 誕生を機に商品体系とルールを整備し、それをベースに社内プロセスを変革したことにあるでしょう。営業プロセスにデジタル情報の流れる仕組みを構築し、3D データを整備し、それを商品の進化とともに継続して提供するという運用を実現していたのです。

それは、まさにラティスの提案する XVL パイプライン(3D を基盤とする製品や商品情報の流れを創ることで DX を推進する)そのものを同社の基幹に据えたことを意味します。

2021年、コロナ禍で加速したオンラインショールーム

こうしてみると、DX x 3D というのは短時間には実現するのは難しそうです。しかし、進むべき方向が見えていて、それに向かって社内プロセスとルールを整理しさえすれば、上層部の判断次第で一気に DX が進み、それがビジネス上のかけがえのない競争力の源泉になることが分かります。

この詳細は 2001年 Web3D コンテンツ制作に挑戦したかつての若手社員、LIXIL の慶野さんとの対談という形で以下のサイトに掲載されています。
*対談記事:SPECIAL 対談|リアルを超える顧客体験を創造、LIXIL オンラインショールームで実現した DX × 3D

ところで、哲学者サッカーの試合の結末はどうなったでしょうか。

終了 1分前にギリシャチームのアルキメデスが突然 “Eureka”(分かった)と叫びボールに向かって走り出し、最後はソクラテスのヘッデイングで一点をもぎ取る…と続いていきます。“Eureka” はアルキメデスがお風呂の中で自分の体積とお湯の上昇分の体積が等しいと気付いたときに叫んだ言葉として有名ですね。

本コラムで言いたかったことは、自社の DX 推進ワーキンググループのアルキメデスは誰だろうかということです。誰かが走り出さないと DX はスタートしないのです。走り出してすら 「DX は一日にしてならず」、しかし、DX に成功したときには極めて大きな競争力を手に入れることができるということです。

END

・XVL はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。


著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 などがある。

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