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【製造業DXx3Dを加速する】01.「希望の光」となった3D
2024年2月5日
2023年末に久々に嬉しいニュースを目にしました。最新の学習到達度調査(PISA)という各国の15才を対象にしたテストで、読解力や数学的応用力、科学的応用力の全分野で日本が躍進、特に読解力では81カ国中3位に急浮上したというのです。前回の2018年調査では過去最低の15位だったということですから、目覚ましい復活です(図1)。日本はコロナ禍による休校期間が短かったという追い風もありますが、IT環境やIT教育の充実、AI時代を見据えた日本語の読解力の向上に各学校が取り組んだ成果でもあります。若者への教育の成果が目に見えて現れるのは、資源の乏しい日本にとって、大変喜ばしいことです。
スマイルカーブが語るサービス分野の価値
製造業においてどのプロセスが価値を生んでいるかを見える化したものにスマイルカーブがあります。もともとパソコンなどの電子産業を対象に考察されたもので、どのプロセスが価値を生んでいるのかを示すものです。図2を見ると低コストを求めて海外生産の進んだ製造・組立の生み出す価値は少なく、製品力のかなめとなる研究開発やブランディングが大きな収益を生み出すとされています。ただし、複雑な調整が必須となる擦り合わせ型製造業では、製造・組立の生み出す価値は大きくなるかもしれません。注目すべきは、研究・開発と並んで収益源となっているアフターサービスの分野です。最近、アフターサービスの分野は製造業全般で、ますます重要になってきていると確信します。その理由は何でしょうか。
一方、メーカーはその製品の保守情報、修理手段を熟知しています。一刻の猶予もなく故障から脱したいユーザーと修理情報を持つメーカー、この情報の非対称性がアフターサービス分野での付加価値を生んでいるのです。さらに今後は、製品の売り切りでなく、保守サービスという形で顧客との良好な関係を継続的に維持し、それを次のビジネスにつなげていくということが差異化のキーになっていくでしょう。
バリューチェーンに沿って3D活用を推進するCasual3D
話は大きく変わって2000年頃のこと、軽量3D XVLの創世記に「 Casual3D」というコンセプトが生まれました。「だれでも、どこでも、いつでも3D」という世界をXVL技術で実現しようというものです。バリューチェーン上流の3D CADの重たいデータを軽量化して、全社さらには関係者全員が生産性向上に向けて3Dデータを活用して業務を変革していく世界です。スマイルカーブに沿うように3Dデータ活用の流れを広げ、生産性を革新していくというのがCasual3Dの実現したい世界だったのです。
2000年当時はネット環境も貧弱で1GB近い金型のデータをネット共有して活用しようというのは現実的ではありませんでした。図3のように、設計では3D設計後、2D図面を作成し、後工程には紙図面が流通していました。もし、そのデータを数MBまで軽量化できれば、組織の壁を越えて3Dデータの共有が可能になり、設計の基幹データである3D情報をベースに仕事を進める環境が整うのです。これがCasual3Dで実現しようとした世界です。
図3の右側で実現されたプロセスの変革を今、DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼びます。しかし、このDXには3D設計が十分進んでいないとか、後工程の紙文化を変えられないとか、組織の壁を超えて変革を実現できないといった課題があり、ここまで到達した企業は、なかなか少なかったのが実態です。しかし、徐々に課題は解決されつつあります。今回はCasual3Dでサービスの高度化に成功した事例を紹介しましょう。
高いサービス品質を求められる古野電気の電子機器
古野電気株式会社(以下、古野電気)は舶用機器の製造販売やサービスを主力とする急成長中の会社です。同社は、超音波や電波、レーダーといった技術を持ち、世界初の魚群探知機を開発するなど、商船や漁船、プレジャーボートに欠かせない電子機器の製造販売をしています。船の運航を支える同社製品の故障は人命にも関わってきます。製品導入が世界に拡大する中、製品の保守にはグローバルで高いサービス性が求められます。
サービス性が高いとは、製品が壊れにくく、かつ、壊れても即座に修理できることです。たとえば、船のソナーは20年の長期に渡って、荒れた洋上で利用されるものです。ソナーは水中を伝播する電波を用いて、水中の物体を検知します。したがって、船底からソナーを出して航行するので、漂流物にぶつかり破損することもあります。必然的に故障の機会も増え、壊れた部品だけを迅速に交換するといった質の高いアフターサービスが必須になります。では、同社では、これをどう実現してきたのでしょうか。
高いサービス品質を3Dで支援できないか?
いうまでもなく、高いサービス性を支えるのは豊かな知識と経験をもったサービスエンジニアです。同社では、サービスエンジニアの教育として基礎研修と技術研修を行います。基礎研修では、サービス業務の基本を学習します。技術研修では図面や写真を多用した分解・組立要領書を使って製品の構造を学び、工場におけるソナーの実機組み立てを体験します。しかし、設計変更による要領書の修正は大きな負担で、また、肝心の要領書が新人や不慣れな人には分かりにくいといった問題がありました。加えて、すべての実機の組み立てを実習するのは困難です。
故障によって急遽、港に戻った船のソナーを突貫で修理するには、サービスエンジニアには製品の構造や多彩な部品に精通することが求められます。しかも、同社のサービス拠点は国内35ヶ所と海外子会社30ヶ所にあります。サービス関連事業も拡大する中、言語の壁を越えて多数のサービスエンジニアへの教育訓練を、効率的かつ効果的に進めていくことが大きな課題となっていました。
「サービスという仕事には、ヒトとモノ、そして情報という3つが関わります」、サービス統括テクニカルセンター長の淺見直史氏は語ります。保守の現場をサポートするミッションを持つテクニカルセンターという部署では、製品の情報を3Dで伝達することで現場を支援したいと考えました。大きな製品をひっくり返してすべての部品を掌握するのは現実的ではありません。同等のことを3Dで実現してはどうかと考えたわけです。
Casual3Dで高い保守性を実現する
同社では3D 設計が定着し、製品の3Dモデルはそろっています。そこで同社では、紙ベースのサービスドキュメントに代えて、何年も前から3Dデータを利用することにチャレンジしてきました。ところが、CG作成を外注してみるとコストがかさみ継続的な運用は現実的ではありません。自社で、3D CADでアニメーションを定義しようとしても、データが重たくてなかなかモデルが動かないなど、いずれも上手くいきませんでした。
そこで提案されたのが軽量3DのXVLでした。実際、試してみると現場のエンジニアがサクサクとXVLでアニメーションを定義し、それがキビキビと動くのを見て、半信半疑だった淺見氏もXVL導入を決断します。図6右のように外部を半透明表示して、内部の動きを分かりやすく表示することで複雑な構造も容易に理解することができます。設計部門から3Dデータを入手して、すでに20機種ほどの3Dのサービス向けアニメーションを作成したといいます。
3Dによるサービスマニュアルは海外のサービスエンジニアにも特に評価が高く、初めて見た人からは“Cool!”という言葉が飛び交ったと言います。年間3000人を教育訓練する同社にとって、3Dは大きな武器となります。まさに、「だれでも、どこでも、いつでも3D」というCasual3Dを実現したのです。3Dで教育を受けた世界中のサービスエンジニアは、機器の内部まで理解した上で、故障に対峙することで、効率的な保守を実現できるようになるでしょう。
「希望の光」となったCasual3D
3Dが現場力を引き出すことに貢献したこの状況を淺見氏は「希望の光」と表現します。製品の仕組みに精通したエンジニア自身が、その内部構造を3Dでアニメーション編集し、配信された3D情報を見て、現場にいるサービスエンジニアもモチベーションを上げたという意味でしょう。Casual 3Dが「希望の光」となるとは、開発元のラティスとしても大変嬉しい話です。古野電気における「希望の光」については、株式会社図研のサイトにあるビデオ(参照先:株式会社図研|古野電気株式会社 様、XVL導入事例)がよく物語っています。
現場のサービスエンジニアのモチベーションは、修理に要した工数が少なければ少ないほど向上するといいます。3Dで製品の内部構造を理解したエンジニアは、自信をもって修理に向かい、従業員の満足度が向上するというわけです。これは、顧客満足度の向上にも直結するでしょう。このことを淺見氏は「希望の光」と表現したのです。
今後はリモートサービスを展開することでユーザー接点を「点から面」に広げていきたい、そのためには、国内外の同社のサービスエンジニアにも、また、そのディーラの技師にもXVLをどんどん使ってもらいたいと淺見氏は語ります。将来的には、XVL VR を利用した現物大でのリモート情報共有、XVL ARを利用した現物への情報投影、XVL Kinematics Suite 利用した製品の機構動作のシミュレーションなど、さらに高いサービス性を実現できる可能性が広がります。
「見えないものを見える化する」ことで未来を拓く
世界32位に沈んだデジタル競争力ランキングは54個の指標で評価する仕組みとなっています。日本の特に何がいけないのかを見てみると、デジタル/技術的スキルの可用性 63位、企業の俊敏性 64位、上級管理職の国際経験64位と悲惨な数字が並びます。デジタルスキルが低く、外国人とのビジネスも苦手で、将来に対する備えも不十分ということでしょう。しかし、古野電気における3Dを全社でグローバルに活用するという取り組みは、日本にもデジタルでグローバル競争力を高めている会社があることを示しています。
実は、同社のソナーやレーダーは、海の中や遠方の「見えないものを見る」ことを得意とします。「見えないものを見る」というのは「現物では見えないものを3Dで見える化する」ということと通じ合うものがあります。今後、ますます重要になるアフターサービスの品質をCasual 3Dで高めることができる、この事実はCasual3Dは多くの日本企業にとって打ち出の小槌になる可能性があることを示しているのではないでしょうか。
(ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志)
【用語解説】
- ・Casual3D:製造業おいて「どこでも、いつでも、だれでも」3Dデータが身近にあり活用できる世界のこと。ラティス・テクノロジー株式会社が目指す世界。
【その他】
- ・所属、役職名などは掲載当時のものです。
・XVL、Casual3Dはラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名、製品名など名称は各社の登録商標または商標です。
著者プロフィール
鳥谷 浩志(Hiroshi Toriya)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3Dデジタル現場力」 「3Dデジタルドキュメント革新」 「製造業のDXを3Dで実現する~3Dデジタルツインが拓く未来~」などがある。
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