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製造業 DX × 3D 成功のヒント|09.DX 成功のキーを握るのは?

2022年11月24日

09.DX 成功のキーを握るのは?

ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志


ルネサンス期に生まれた遠近法は、近くのものは大きく、遠くのものは小さく見えるという人間の目の特性を絵画の上に再現したものです。これに加えて風景画では、近景・中景・遠景を描き分けると情感あふれた絵ができると、ある美術館の説明から学びました。

近景ではしっかりと描き込みコントラストをはっきりさせ、遠くに行くほど輪郭をぼやかし明暗差を下げ、遠景は最低限の淡い色で描く、こうすることで絵に広がりが出て魅力的になります。では、近景・中景・遠景のどこが大事かといえば、まず、中景を描き込んで、そこを基準として、近景と遠景との距離感を強調するとよいということでした。

DX リーダー不在で起こる 「デジタル家内制手工業」 とは?

これは DX (デジタルトランスフォーメーション) の推進手法とも似ているのではないかということに、はたと気付きました。つまり、近景・中景・遠景を現場、マネージメント、経営層と読み替えれば、マネージメント層が、現場と経営層の間で、DXを成功させるためのキーとなる役割をすべきではないかということです。眼前の課題に精通し、どうしても個別最適に走りがちな現場、DX を進めなさいと言う経営層、この間に入るマネージメント層にいる DX リーダーこそ、組織内外の調整と革新を推進し、現場の枠を超えた最適化を進めることができると考えられるからです。

最近、製造業のデジタル化の現場を訪問して感じるのは、経営層は自社の DX は推進されていると確信している一方、現場ではそれぞれの好みで多様なデジタルツールを導入しているだけという実態です。これはマネージメント層の DX リーダー不在で起こる現象です。個別に様々なツールが導入されると、あちらこちらで無駄なデータ変換やデータの再入力がおき、デジタルの効果がどんどんと失われてしまいます。挙句の果てに、昔と同じように、出来上がった帳票を紙に印刷し、それを手でアナログ配布しているとなると、DX とは真逆の方向に進みます。

この状況を私は 「デジタル家内制手工業」 と呼んでいます。デジタルツールの導入で、一見、アナログな作業がデジタル化されたように見えるのです。しかし、実態は人手でデータをかき集め、足りないデータを入力し、ツールで編集した後、別のツールに渡すため、データ変換をし、変換時に欠落したデータを手で再入力し・・・という具合に、ムダな作業の連続になるわけです。図1 は、3D データ活用に取り組んでいますというある企業の例ですが、帳票に利用する図を作成するのに、いくつものツールを利用して、最終的に Microsoft Excel 帳票に貼り付けていました。このままでは生産性は上がりませんし、設計変更時に、これを繰り返す気はしないでしょうから、現場は古い情報に基づいて作業をすることになります。このような状況でも、経営層はデジタルツールの導入によって、わが社は DX が進んでいると勘違いしていることすらあるのです。

図1.典型的なデジタル家内制手工業の例

「3D データの蓄積と流通」 で実現する製造業 DX × 3D

デジタル化によって効果を出すための本質は 「同一形式による大量のデータの蓄積と流通」 です。プレゼンテーションを Microsoft PowerPoint で編集する人は多いでしょう。プレゼンテーション資料を数個作成するだけでは、ツールを覚える手間が増えるだけで効率はかえって低下します。

一方、大量のデータが蓄積すれば、過去のデータを再利用することが可能になり、編集効率が次第に上がっていきます。また、これを組織で共有すれば、その生産性の向上を組織のものとすることができます。そして、この先に DX は実現されます。「デジタル家内制手工業」 の状況では、この生産性の向上が起こりにくくなります。なぜなら、異なるツールの異なるフォーマットではデータの流通が進まないからです。

また、至るところで人手による作業が入り、データを流通させるためにデータ量に応じたコストが発生してしまうからです。さらに、致命的なことは、データ変換のような異なるツールの使いこなしは属人的な作業となり、担当の人が異動してしまうと運用できなくなってしまうことです。DX 成功に向けて、マネージメント層のリーダーの責任は重大です。

図2.3D デジタルツインの蓄積と流通で実現する製造業 DX × 3D

これを解決できないかと考えたのが XVL パイプラインです。CAD を導入することで、設計部門のデジタル化は進みますが、全社に CAD データを流通させることはデータ量的にも運用コスト的にも非現実的です。であれば、設計部署に蓄積する CAD データを軽量化し、そこにものづくりに必要なデータを集積し、それを全社に流通させることができれば、全社 DX が進むのではないかと考えたわけです。

設計の 3D モデルとものづくりに必要な情報を軽量 3D の XVL に統合すれば、図面も実機も置き換え可能な 3D モデル、3D デジタルツイン® ができます。この XVL データを全社に流通させ、生技部門、工場、サービスで DX を進めていくのです。この社内 DX 成功の延長線上に、「デジタルを利用したビジネスモデルの変革」 という本来の製造業 DX × 3D があります。

3D でビジネスモデル変革に挑む – SUS社の事例

今回は、製造業 DX × 3D に挑戦する事例として、アルミフレーム業界 No1 の SUS株式会社 (以下、SUS) の取り組みを見てみましょう。同社で DX を推進したのは、DX 担当の取締役の渡邊雅志氏です。経営層でもありますが、むしろ、DX リーダーとし製造業 DX × 3D を推進されています。

SUS は製造設備などで利用されるアルミフレームを提供する会社です。お客様である製造業では、このアルミフレームを切断・加工して、組み立て、最終的にはアルミの筐体 (以下、アルミプロダクト) という 3D の構造物を作ります。製造の現場では、創意工夫に富んだ部品棚や作業台、AGV (Automatic Guided Vehicle:無人搬送車) を使った効率的な搬送システム等々を組み合わせて、生産性向上に取り組んでいます。渡邊氏は、現実世界では 3D の構造物となるアルミプロダクトを、デジタルな世界でもレゴブロックのように組み上げていけるのではないかということに着目しました。アルミプロダクトを構成するパーツの 3D 形状は市販の CAD を使って同社で設計します。さらに、同社は、これを組み合わせて 3D の構造を組み上げる専用の設計ツール 「apdX」 を開発し、お客様に提供したのです。部材の 3D モデルも同社からお客様に提供します。その部材にはあらかじめ結合のルール、つまり、どの部材とどの部材のどこがつながるか、どの部材はどの部材とつながらないかといったことが設定されているのです。この結果、apdX ユーザーはレゴブロックを組み上げるように、手軽に、しかも正しくアルミ部材を組み合わせ、自分たちの欲するアルミプロダクトをデザインできるようになります。実際にデザインに要する時間が 1日から 1時間に減少、生産性がけた違いに上がったという声がお客様から届いているということです。

apdX の発想が素晴らしいのは、それが SUS 社内ではもちろん、お客様にも利用されることを想定して開発されたことです。実は apdX の大文字 “X” は DX のそれであり、また、未知なるプロダクトをアルミで設計するとい思いが込められているといいます。実際に現場でアルミプロダクトを利用する方自身が、その最終イメージをデザインすることができるようになっています。もちろん、部材情報も自動更新されるので、お客様は最新の製品情報に基づいてデザインを進めることができます。また、その結果は軽量な XVL 形式で出力し関係者間で共有、組立工程から検査まで利用することができます。現在は、社内での利用に留まっていますが、これはそのまま協力メーカーやお客様にも使っていただく予定とのことです。お客様はアルミ部材を必要な寸法まで記載された XVL による組立手順書を確認しながら、アルミプロダクトを組み上げていくことができるようになります。

図3.apdX の 3D モデルを XVL で活用する

最も画期的なのは、渡邊氏の構想がビジネスモデルの変革まで見据えたものであったことです。実際、apdX でデザインされた情報は同社のオンラインストア 「ウェブサス」 へ自動送信され、そのまま受発注できる仕組みになっています。表面的には、設計モデルを構築するという情報の流れに見えますが、裏では受発注情報や標準原価など経営情報の流れも捕捉できるシステムとなっているのです。また、筐体設計の事例をライブラリとして公開することで、お客様のデザインを支援する取り組みを行っています。お客様には、ベストプラクティスとなるデザインをいち早く利用できるというメリットが生まれます。

昨今ではレゴブロックで人気キャラクターのスーパーマリオやスターウォーズを作るレゴセットが売られているそうです。それと同じように、最高の筐体デザインを3Dモデルで共有し、現実のアルミ筐体で再現できる世界を実現したいと渡邊氏は語ります。詳細は渡邊氏との対談を参照ください(参考: SPECIAL 対談記事)

近景・中景・遠景に学ぶDX成功の秘訣

DXの本質は「データの蓄積と流通」であること、そして、それを実現するのは、率先するマネージメント層におけるリーダーの存在であることがお分かりいただけたでしょうか。

図4.歌川広重の 「隅田川水神の森新崎」

Utagawa Hiroshige 歌川 広重. Suijin Shrine and Massaki on the Sumida River (Sumidagawa Suijin no mori Massaki), from the series “One Hundred Famous Views of Edo (Meisho Edo hyakkei)”, Date 1856. The Art Institute of Chicago.

最後に、日本の浮世絵で、近景・中景・遠景はどう表現されているか調べてみました。歌川広重の名所江戸百景という風絵画の中から 「隅田川水神の森新崎」 を見てみると、手前の桜の花は花びらまで写実的にしっかりと、中景の隅田川沿いの木々は枝ぶりなどその概形を、はるか遠くの筑波山は淡い色で描かれ、非常に魅力的な浮世絵に仕上がっています。

DX の成功を考え抜いたおかげで、絵を見る目も肥えてきました。歌川広重は木版画で人気の浮世絵師となり、西洋のゴッホやマネにも影響を与えたと言います。現代に生きる私達も、日本ならではの製造業 DX × 3D で世界に影響を与えたいものです。

END

・XVL、3D デジタルツイン はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。

コラム 「製造業 DX × 3D 成功のヒント」 これまでの記事はこちらから


著者プロフィール

鳥谷 浩志 代表取締役 社長執行役員

鳥谷 浩志 (Hiroshi Toriya)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション (DX) を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 「製造業の DX を 3D で実現する ~3D デジタルツインが拓く未来~」 などがある。

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