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製造業 DX × 3D 成功のヒント|08.製造業 DX × 3D 成功の秘訣
2022年8月22日
08.製造業 DX × 3D 成功の秘訣
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志
「魚を与えることではなく、魚の釣り方を教える」、これは、途上国の支援で必要なことだとよく言われます。実際、人道支援として集められた巨額の資金が途上国の国庫に眠っていたり、ムダに使われていたりすることもあると言います。魚を与えることで一時的な空腹から回復しても、魚を釣るすべを知らなければ、自立して生きていくことはできません。
同じことが DX (Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション) にも言えるのではないでしょうか。実現可能性を検証する PoC (Proof of Concept:概念実証) までは IT 部門が率先して、データも準備し、時には現場のオペレーションまでやって、成功に導いていながら、いざ運用となると現場では運用が回らないということをよく聞きます。
IT 部門がさっさと魚を釣り上げ、現業が忙しい現場は、釣り方を覚える暇がなかったということでしょう。実際、DX に成功したという事例にはなかなか出会いません。まず、なぜDXは成功しないのかに迫ってみましょう。
セブン&アイの DX 敗戦
2022年1月、ダイヤモンドオンラインに株式会社セブン&アイ・ホールディングス (以下、セブン&アイ) の DX 敗戦のスクープ記事が連載され、話題となりました。巨額の投資をして進められていた DX 戦略が、2021年総責任者の執行役員の退社という形で大きな方向転換がされたということです。
ダイヤモンドの記事を読むと、多様な利権の絡んだ巨大組織が、ビジネスモデルの変革にまで踏み込む DX を成功させるのは、極めて難しいということが分かります。何が失敗の原因だったのでしょうか? 私見ですが、ざっくりと 3点にまとめてみました。
- 経営陣が DX の本質を理解し、トップダウンで推進するとともに、負担の増す現場には適切な対応をとるということをしなかった。
- DX の内製化という旗印のもと、大量の IT 人材を採用したものの、何を社内でやって何を IT ベンダーにやらせるのかが社内政治もあって混乱した。
- 販売の現場重視という旧来の文化の中で、DX 推進を御旗に優遇される IT 組織が現場の反感をかった。
ラティスが取り組んでいる 「製造業 DX × 3D」 とは二~三桁も違うスケールの話にも関わらず、ここからの教訓は結構共通しています。
経営陣が DX の意味を理解し、仕事の手法が変わることで反発する現場を巻き込みながら DX を推進し、何を目的に何をするのかは自社で考え、どう実現するかを IT ベンダーに任せるといったことが、プロジェクトの大小に関わらず重要になってくるのではないでしょうか。
CIO が語る DX の要諦
製造業 DX という観点では、2022年4月に CIO Lounge 理事長の矢島 孝應氏に、CIO から見た製造業 DX 成功への要諦 (参考:対談記事) を教えていただきました。CIO (Chief Information Officer:最高情報責任者) とは企業の情報戦略を決める最高責任者であり、DX 推進のキーマンです。
CIO には経営視点と IT への高度な理解が求められますが、なかなかそれを満足する人材は乏しいですし、DX への理解が得られず、企業の中で孤立してしまうこともあるようです。そこで、CIO の横のつながりをつくろうというのが CIO Lounge です。矢島氏のお話の中で、特に興味深かったのが以下の 3点です。
- IT と経営は表裏一体である。鮮度の高い情報に基づき、正しい経営判断をすべきなのに、経営会議では古い情報が紙で配られている。これは経営者が IT を理解していないことに起因する。IT 投資の結果を活かすには、誰もが IT を使いこなせるようにデータの民主化を進めるべきである。
- DX とはデジタルを使った変革ではない。ビジネスの変革をデジタルで行うものである。ビジネスモデルを変えるという意味では、DX は起業をすることと同じである。つまり、DX とは BX (Business Transformation:ビジネストランスフォーメーション) である。
- DX は IT 部門が率先して進めるべきである。ただし、現場で変革意識の高い人間を IT 部門に取り込んでおく必要がある。実際に何か新しいことをやってみようと思う人間でなければ、DX を推進することは難しい。
こうして眺めてみると、セブン&アイの教訓と共通する点も多そうです。矢島氏は DX は単なるデジタル化ではなくデジタルによってプロセスを変える、そして、その先にある BX だと説きます。DX が BX であるならば、社内データの民主化を進める上でも、経営者の DX への理解は必須です。
そもそも、DX 成功のためには、IT 部門と現場の協力が必須となるわけですから、社内の現場から変革意欲の高い人を IT 部門に入れ DX 推進を進めさせるというのも、納得のいく考え方です。それでは、これまでの話を、製造業 DX × 3D を成功させるという視点で具体的に考えてみましょう。
タツノ社の事例:サービス DX を 3D で実現する
製造業 DX × 3D 成功に向かっている代表として、“サービス DX” という視点で、株式会社タツノ (以下、タツノ) の事例を取り上げてみます。世界三大ガソリン計量機メーカーのタツノは、脱炭素社会到来の中で大きな変革を求められています。変化に強い企業体質を持とうという中で着目したのが、3D CAD データの徹底活用です。CAD を設計だけが使っているのではもったいない、それを活用しない手はないというのがスタートでした。
そこでまず、株式会社図研プリサイト (以下、図研プリサイト) の visual BOM を導入し CAD の 3D データと部品表を連動させます。つまり、製品に対応する双子のモデルである “3D デジタルツイン” を構築できるようにしたわけです。続いて、保守専用部品の 3D データとサービス部品表を連携させます。上流の部品表がしっかり出来上がっていれば、部品番号をたどることで、サービス部品表との連動も簡単にできます。
こうして、図3 にあるように、サービスコンテンツ配信システムを中核に、サービス受発注システムなどとの連携を実現していきます。どんな製品が来てもサービス情報を迅速に提供でき、故障部品素早く入手できるようになり、変化に強い企業体質を構築できるというわけです。
上流で 3D デジタルツインが整備されれば、XVL Web3D 技術により 3D データを使った保守サービス情報をサービス担当者に送り、タブレットやスマホで表示することが可能になります。こうしてサービス DX を 3D で実現することによって得られるメリットは以下の3点です。
- ① 3D データを活かして、タイムリーにサービス用のパーツリストを提供できる。
- ② Web コンテンツにタブレットからアクセスできるので、サービス部門での交換部品の検索性が向上する
- ③ 交換部品を 3D で確認できるので、パーツリストの利便性が向上する
タツノ社に学ぶ製造業 DX × 3D 成功への道筋
この DX の取り組みをタツノの経営層はいかに進めたのでしょうか。推進責任者の同社の羽山取締役との対談を、2022年5月に公開しています (参考:対談記事)。タツノの取り組みで面白かったのは、DX と大上段に構えずに、データを一元管理・活用していこうという考え方です。これは、まさに先に述べたデータの民主化そのものです。そしてデータの有効活用のためには部品表の整備が必要ということで、Visual BOM の導入を決めます。
この対談の中で、実際のシステム構築を担当した図研プリサイトの尾関将社長は、羽山氏のリーダーシップを DX 成功の要因にあげています。設計の BOM システム構築に留まらずに、一気にサービス部門でのデータ活用まで踏み込み、そのためのデータ作成や運用ルールを決めていったというのです。ここまでの話は先のセブン&アイの教訓、1).経営陣の理解と率先、2).IT ベンダーとの信頼関係、を具体的に実現したものといえるでしょう。
さらに面白いのはデータがまだ不十分な段階で、サービス分野への適用をスタートしたという点です。羽山氏はサービス部門の意見を聞き、パーツ情報の 3D 化で飛躍的に効率化することを知ると、設計部門を説得、足りない部分の 3D 設計を担当するメンバーを配置したというのです。これはセブン&アイの教訓 3) を見事に解決するものです。
徹底的なデータ活用という発想から始まったプロジェクトですが、設計のための部門最適なデータ活用から、サービス部門も含めた全体最適の実現というレベルまで達成したことで、DX へとつながっていきます。同社では、今後、サービス情報とクレーム情報を一元管理しトレーサビリティを実現する、サービスパーツの受発注システムを刷新していくといことも計画しており、CIO Lounge の矢島氏の言う BX、すなわち、ビジネスの変革まで踏み出し始めています。
製造業 DX × 3D 成功のヒント
規模の大小に関わらず、DX 成功の要諦は案外共通しているのかもしれません。そのポイントを二つにまとめてみましょう。
まず、第一は IT 部門が先導役となって、現場はデータ活用により部門最適を実現し、トップはそれを一気に全体最適まで持っていくという点です。よく製造業 DX 成功はトップダウンかボトムアップかと聞かれますが、私の見たてでは、トップ 20%、ボトム 80% でしょう。
トップは現場を動機付けし、現場の改革は現場を誰よりもよく知るメンバーがボトムアップで進めます。それが成功したら、トップは全体最適への道筋を定め、また、ボトムアップに任せるという手順になるのでしょう。
第二は、製造業 DX の本質は、プロセスの並列化による開発期間の劇的な短縮にあり、そのためには部門を超えてデータを整備し、共有化し、徹底的に活用するという点です。まさに、「だれでもいつでもどこでも 3D」 という Casual3D というコンセプトで提案してきたシナリオです。そして、データ共有と活用基盤さえ準備できれば、VR や AR という続々と進化する技術によって、さらに 3D データの活用範囲が社外へも広がり、DX から BX へと進化していきます。
こうして考えてみると、DX 成功の秘訣は案外身近なところにありそうです。経営と IT 部門、そして、現場の間で 「魚の釣り方」 ならぬ、効果的な 「データの活用方法を追求」 していくというのは間違いなく着実な一歩となります。
END
・XVL、3D デジタルツイン はラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名および製品名は各社の登録商標または商標です。
コラム 「製造業 DX × 3D 成功のヒント」 これまでの記事はこちらから
著者プロフィール
鳥谷 浩志 (とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで 3D の研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量 3D 技術の 「XVL」 の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション (DX) を 3D で実現することに奔走する。XVL は東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の 3D テクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3D デジタル現場力」 「3D デジタルドキュメント革新」 「製造業の DX を 3D で実現する ~3D デジタルツインが拓く未来~」 などがある。
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