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製造業DX×3D成功のヒント|10.ドイツ発Industrie4.0に学ぶ製造業DX×3D
2023年1月30日
10.ドイツ発Industrie4.0に学ぶ製造業DX×3D
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志
このところドイツとは縁を感じます。2022年11月、ドイツ語圏のパートナー企業やユーザー企業を訪問、3D活用の現状と課題の議論をしてきました。その帰国直後には、ワールドカップで日本がドイツに劇的な逆転勝利。滞在中に勝たなくて良かったと思ったものです。最近のドイツは、ロシア産ガス供給減少への懸念によるエネルギー価格の高騰や新型コロナの影響でサプライチェーンが混乱し物価も高騰、経済見通しは冴えず、12月にはクーデター未遂事件が発覚するなど不穏な事件もありました。それでも何か学ぶことはあるだろうと、帰りのルフトハンザ航空の中で読んだのが、「ドイツではそんなに働かない」(隅田 貫著、角川新書)でした。
ドイツから学ぶこと
本書は、労働時間が日本より年間300時間短く生産性が1.4倍のドイツについて、その働き方を日本と比較しながら書いた書籍です。記憶に残っていることを三点だけ書いておきましょう。
- ドイツには「人生の半分は整理整頓である」という諺があり、整理整頓に時間を費やす。この結果、探し物が減るなど、生産性が上がる。
- ドイツは仕組みを作って定着させることを得意とする。たとえば、企業が従業員を解雇しやすくし、国は失業保険を減らす一方、職業訓練を推進、雇用あっせんを強化することで失業率を下げるというハルツ改革に 2002年から着手し、社会全体の生産性を上げた。
- ドイツ人は「人は人、自分は自分」と割り切る。ただし、人へのリスペクト、つまり異なる考え方をする人に対し「そういう考え方もあるよね」と尊重する習慣がある。相手の意見に耳を傾け、尊重し相違点を明確にした上で互いの溝を埋め、落としどころを探るというディスカッションができる。
設計と製造に関する情報を整理し、産官学でシステムを整備し、製造現場でも利用できるように現場とも議論を尽くしていくと考えると、ものづくり変革を促すIndustrie4.0がなぜドイツで生まれたのか分かる気がします。
Industrie4.0を振り返る
2022年の秋、FA業界の重鎮とIndustrie4.0と日本のあるべき姿をテーマに対談(参考:SPECIAL 対談記事)をしました。主役の一人は、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)や三菱電機エンジニアリング株式会社(以下、三菱電機エンジニアリング)において、FA機器の開発設計を推進した元役員の尼﨑新一氏。もう一人は、その三菱電機とラティスの双方の販売パートナーでもある技術商社の株式会社立花エレテック(以下、立花エレテック)の元専務、山口均氏です。山口氏はFA業界の黎明期からNC装置やシーケンサの販売と普及に努め、さらに三菱電機のFA機器販売から、システムとしてのFAソリューション販売へと舵を切った方です。尼崎氏はFA機器制御の中核を担うシーケンサ(三菱電機製のPLC)の開発を主導し、その後、三菱電機のスマートファクトリを実現するためe-F@ctoryをけん引、シーケンサのAPIを公開するなどアライアンス戦略を推進していきます。2011年、そこに現れたのがドイツの推進するIndustrie4.0でした。今ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉にすべて集約された感がありますが、Induties4.0 は何だったのか、お二人の話から総括してみましょう。
当時、ドイツを視察した尼崎氏は、アメリカのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるIT企業がデータを全て吸い上げようとすること、また、中国の製造業が低コストを武器に世界進出を始めたことに、ドイツは強い警戒感を持っていたと言います。その解決策こそ官公庁が一体となったECM(Engineering Chain Management)軸での一気通貫での効率化、Induetrie4.0だったのです。
- Induetrie4.0とは、設計・生産・販売・保守・サービスまでECM軸での情報の一気通貫によって、事業のスピードアップを図ると共に、新しいビジネスモデルを生み出そうというコンセプト。
- 実際にSAP・Siemens・Trumps・SICKなどのドイツ企業のソフトウェア・工作機械・FA機器・センサを活用すればECM軸一気通貫が実現でき、その仕組みを輸出しようとしていた。
- Siemens社は自社にない技術やソフトウェア企業を次々に買収し、Industire4.0のコンセプトを一気に実現していく。加えて、産官学で協調し、ドイツ全体で標準化を進め、自然に効率が上がって行く仕組みを作っていく。
いったい何が日本と異なるのか?
日本と比較して、国を挙げての標準化はドイツの得意とするところです。そのあたりの違いを農耕民族と狩猟民族との違いと二人は喝破します。農耕民族の日本は自分の田畑に自分で種を蒔いて時間をかけて丹精込めて育てる、つまり、日本の製造業は自前主義に陥りやすいのです。一方、狩猟民族のドイツはお腹がすけば、連携して狩りに出かけ獲物を仕留めます。Industrie4.0で言えば、FA機器・配制機器・ケーブルなど電機品データの標準化を進め、標準データベースにある電機品であれば、設計支援から受発注まで可能な仕組みを各社が連携して構築してしまうのです。一方、日本は各社各様で最適になるようライブラリ化を進めてしまうため、企業をまたいだ全体最適が進みにくくなります。たとえば、PLCでも三菱電機、オムロン、キーエンスとそれぞれの規格があります。
日本のFA業界でも、多くのメーカーのデバイス間で交信できるCC-Linkの規格をオープン化したり、エッジコンピューティング領域のオープンなソフトウエアプラットフォームを実現するEdgecrossを設立したり、といった動きがありますが、標準化では欧州がその先を行きます。実は、このデータの標準化ができないことがDXを進める上でのボトルネックになります。汎用パッケージがあるにも関わらず、自社に適したシステム構築をするユーザーが多いのも日本の特徴です。
では、なぜ、日本では標準化が進まないのでしょうか。尼崎氏は、国のリーダーシップと企業のスタンスの違いと指摘します。海外では、政治家に理系出身も多く、技術的な事柄への知見・理解がある一方、日本の官僚は文系が多く、技術への知見・理解が薄いのではないかというのです。また、企業もITリテラシーが低く、発想を変えていく必要があると指摘します。たとえば、欧州では、プログラム容量が大きいPLCを当たり前に購入し、それに関わる人件費を抑えようと発想します。一方、日本ではコスト低減のため容量の小さなPLCを購入し、設計者はいかにプログラムサイズを小さくするかに明け暮れます。この間、欧州の設計者はソフトウェアの標準化に知恵を絞っているのです。
日本の対抗策は?
日本は貴重な人財パワーをもっと大きな変化をもたらすことに使うべきと尼崎氏は指摘します。ドイツのIndustrie4.0に対抗する手段の一つが、ECM軸の一気通貫を軽量3D活用で実現することだというのです。なぜなら、日本の製造業はITインフラにはあまり投資をせず、性能の低いPCが多く、巨大な3D CADデータ活用が進んでいないからです。こういった日本の環境では、3D CADデータを1/100程度に圧縮する超軽量XVLが有効です。設計・生産・販売・保守・サービスといったECM軸において、3DデータのXVLを一気通貫で活用することで、データ形式がXVLに統合され、標準化することができます。日本の貴重な人財はインフラ問題に悩まされずに、プロセス改革にまい進することができ、Industrie4.0にも対抗できるようになるでしょう。
実際、三菱電機・三菱電機エンジニアリングでは、名古屋事業所におけるインバータ製品の設計・生産・販売・保守・サービスへのXVL活用によるECM軸一気通貫での効率化に取り組んできました(参考資料:「設計3DデータのECM/SCM プロセスでの一気通貫活用」)。まずPDMにXVLデータを登録し、超軽量なXVLを関連部門から無償ビューワで参照できるようにしました。この結果、高性能なPCを持たないサービス部門でも簡単に3D形状の確認ができるようになり、発注ミスの低減、修理業務の効率化に寄与しているといいます。3D組立図や組立アニメーション、サービスパーツリストに至るまでECM軸に沿って、XVLの適用を始めています。これを他の製品や業務領域にも適用していくと三菱電機エンジニアリングの主幹技師長の三田善郁氏は語ります。たとえば、工場レイアウトや搬入出の検討に現場でスキャンした3D点群データを活用する、組立性の検証でVR(Virtual Reality:仮想現実)を活用する、といった適用拡大を計画しています。
デジタル家内制手工業から製造業DX×3Dへ
三菱電機における設計3DデータのECM/SCM(Supply Chain Management)プロセスでの一気通貫活用を模式的に表現すれば、図のように設計周りの設計・解析・加工のフェーズではCADデータ、製品組立以降の検証・作業指示・サービスドキュメント作成のフェーズではXVLデータが流通するイメージになるでしょう。
この一気通貫のデータ活用こそ、前回指摘した「デジタル家内制手工業」(参考:コラム)からの脱却を実現するためには重要な打ち手となります。DX化の掛け声のもとで多様なデジタルツールを導入し、そこで生まれる多様なデータを変換するデジタル職人に依存する家内制手工業から脱却すること、それがIndustrie4.0に対抗する日本の製造業DX×3Dを実現する上では大事です。まず、流通データ形式を標準化し、蓄積したデータを共有し、誰もが参照可能にすること。次に、3D図面、組図、作業指示書、サービスマニュアルなどその適用する範囲を増やし、適用する製品や適用する業務を拡大していくことで、投資対効果は非常に大きなものになります。今やPC導入に誰も異議を唱えないように、3D活用の質と量が上がれば、投資対効果の議論がムダに思えるような効果が出せるはずだと尼崎氏は指摘します。
実は、これは全社一気通貫で3Dを活用して業務革新をするXVLパイプライン構想そのものです。3Dの活用範囲が広がれば広がるほど、投資対効果がどんどん高まり、製造業DX×3Dが実現していくのです。3Dデータ活用という領域に特化すれば、ECM軸での一気通貫というIndustrie4.0の考え方とも合致しています。一気通貫させるデータ形式を標準化しておけば、組織や企業を超えた連携も自然と可能になります。標準化能力が低いとされる日本において、事実上の標準化を進める適切な手段となるでしょう。たとえば、XVLで3D図面を表現することが可能(参考:プレスリリース)ですが、これは紙図面に代わって、企業を超えて流通するデータとなり、企業集団としての全体最適を実現する手段となりうるのでしょう。
スタートは地道な成功の積み重ね
進んでいる方向が正しいとしたら、また、それを経営層が理解したとしたら、XVL活用ソリューションを順次適用して、地道に成功を積み重ねていくことも可能になります。たとえば、作業指示書では以下の手順が考えられるでしょう。
- 3Dデータを使ってデジタル作業指示書を作成してみて、アナログ手法よりも優れていることを確認する
- 国内工場にデジタル作業指示書を展開し、好評なら、適用製品を拡大する
- さらに効率化するために、製造BOMや製造手順BOPを3Dとともに整備するプロセスとシステムを作る
- CADでの設計変更に作業指示書が追従する仕組みを導入し、設変時の効率性も実現する
- Web3D配信で作業指示のマルチブラウザ表示をし、さらに、多言語対応することで海外工場に展開する
- 同じ手順書をVRで確認し、遠隔地での作業教育にも利用する
- 同じ手順書をAR(Augmented Reality:拡張現実)で現物上に映し、めったに製造しないものでも手順を間違えず、組み立てられるようにする
このように現場で小さな成功を積み重ねていくことでDXへの自信が生まれ、さらなる改善へとつながるでしょう。その成功をサービスや工場のDXにも拡大していくことで革新につながります。さらに、それが関係会社をまたいだ変革となり、製品の最終ユーザーまでデータでつながれば、ビジネスモデルを変革する究極のDXへと続いていくのです。DXの起点はデータ活用であり、データ活用の適用領域をどんどんと高めることが製造業DX×3Dにつながります。川上から川下まで一気通貫でデータを使えるよう、データがXVLで標準化されていれば、これを実現できるでしょう。
貴重な人財に挑戦を
ワールドカップの後、サッカーの日独比較の記事を読んでいたら、パスやドリブルなどテクニックでは、すでに日本人が上という話がありました。ただし、フィジカルとメンタルが異なるので、それが試合では生かせないのだといいます。また、対談で得た知見をまとめれば、「おもてなしという言葉に象徴される日本では、徹底的な顧客満足度の追求という国民性が個別最適を生み、ルール尊重という言葉に象徴されるドイツでは、徹底的な標準化志向という国民性が全体最適を生む」ということになるでしょうか。
冒頭に紹介した書籍には、日本人は同調と協調を取り違えている、優れた人は協調するが同調しないという指摘もありました。協調とは力を合わせて事にあたること、同調とはある意見を持つ人と同じ行動をとることです。そして、日本では出る杭は打たれるが、ドイツでは出ない杭は評価されないということです。これはサッカーの試合でも、DXでも同じかもしれません。日本でも貴重な人財をリーダーにチームでDXを推進し、その過程で文句が出ても、そこに同調することなく協調して目標を達成したいものです。貴重な人財が大きな変革に挑戦してこそ、日本の未来は開かれてくるでしょう。
END
【用語解説】
- ・製造業DX×3D:「製造業DX×3D」とは、現地現物のすり合わせや図面を読み解く現場力が必要な日本の製造業(=デジタル家内制手工業)に対して、XVLパイプラインによる3Dデジタルツインのデータの流れをつくることで、製造業全体でデジタルで擦り合わせが行われ、デジタルで現場力が強化されるという、日本の製造業の強みをデジタルで引き出すという考え方。
- ・XVLパイプライン:3Dデジタルツインの情報の流れをつくり、組織の垣根を超えてその情報を徹底活用することでDXを推進する仕組みのこと。
- ・3Dデジタルツイン:「3Dデジタルツイン」とは、現物と図面の双子となる3Dモデルのこと。現地現物を軽量XVLで表現し、図面情報情報をXVLに集約することで、現物に近い3Dモデル(=3D形状+構成情報+ものづくり情報)になるという考え方。
【その他】
- ・XVL、3Dデジタルツインはラティス・テクノロジー株式会社の登録商標です。
・その他記載されている会社名、製品名など名称は各社の登録商標または商標です。
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著者プロフィール
鳥谷 浩志 (Hiroshi Toriya)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に 「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」 「3次元ものづくり革新」 「3Dデジタル現場力」 「3Dデジタルドキュメント革新」 「製造業のDXを3Dで実現する~3Dデジタルツインが拓く未来~」などがある。
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